相続で共有になった不動産名義を一本化

　共有不動産を売却する場合、売主と全員が手続きを行う必要があり、手間が増えます。また、共有者の１人でも売却価格に納得しない場合は、すぐに売却することができなくなります。

　不動産には、固定資産税、管理費、メンテナンス等で経費が必ず掛かります。
実際に共有者の中の１人が住んでいればその者に経費を負担させれば良いですが、誰も住んでいない場合は、経費の負担を誰がするのかを決めなければいけません。また、平等に負担するにも立替があった際は、その都度精算する手間が発生します。

　相続不動産を共有にする最も大きなデメリットが、不動産の権利関係が複雑になることです。相続不動産の共有者が亡くなり、更に相続が起こると、当初の相続人である共有者の相続人が新たに登場します。
もし兄弟で共有になっていた場合に、兄弟のうちの誰かが死亡すれば、その配偶者と子供達も相続人になってしまいます。共有関係によっては、疎遠にしていた叔父叔母や甥姪まで相続人に該当してしまうことがありますから、複雑になった共有関係を解消することが、より一層に難しくなっていきます。

　もし上記の事例で、長男と次男から無料で共有持分を受け取る「贈与」を選択するならば、三男は贈与税を支払わなければいけません。
このケースで、兄弟間の贈与税を計算すると、１０００万円－１１０万円の８９０万円に対して「４０%・控除額１２５万円」となりますので、２３１万円の贈与税が長男と次男のそれぞれにかかりますので、三男は合計４６２万円の贈与税を払わなければいけないことになります。
（参照：国税庁「贈与税の計算と税率（暦年課税）」）

共有持分の名義を贈与で移すということはそういうことです。高額な贈与税を支払わなければいけません。

以下で、共有を解消して名義を一本化する方法について、贈与以外の方法も合わせてご案内しますので、比較検討してみてください。

　不動産の所有権が移転するには必ず根拠（原因）となる法律行為が必要となります。法律行為とは法的な効果を発生させる行為のこといい、簡単に言えば契約です。

共有者間で持分の売買契約を行い、単独で所有者になりたい者が他の共有者から持分をすべて買い取ることにより達成します。
売買により名義を一本化するには、単独で所有者となる者にそれなりの資金が必要となり、また親族間（共有者は相続人）の売買では融資を受けることが非常に難しく、すべてのケースで利用できる方法とは言い難いです。

　仮の事例でもお伝えした「贈与」の方法です。

共有者間で共有持分の贈与を行い、１人に名義を一本化する方法ですが、売買契約とは違い、贈与契約で持分を移転させるため、名義の買い取りにお金を支払わなくて済みます。つまり、単独で所有者となる者に資金力がなくても名義を一本化することができます。
非常に使いやすい方法に思いますが、ただ１つ大きな落とし穴があります。

それが前述したような贈与税の問題です。贈与で持分を移転させる場合には、その贈与している持分の評価額次第では高額な贈与税が課税される恐れがあります。（１０００万円分の持分贈与なら２３１万円が贈与税となります）

贈与税は税率が高いため、持分の価格によってはそれ相応の資金を持分の受取側である者（単独で所有者となる者）が準備しなければならず、売買による一本化と大して変わらない場合もあります。

　相続で共有になった不動産を最も税金をかけずに、共有状態を解消する方法がこれです。売買のように代金を準備する必要はありませんし、贈与のように高額な税金を支払う必要もありません。
この「遺産分割」を登記原因として共有状態を解消することができなら、この方法を採用すべきです。

前述したように、この遺産分割で共有名義を一本化することができるか否かは、条件があります。それの条件とは、こちらです。

　例えば、過去に預貯金や株式といった金融資産について遺産分割協議をしたが、不動産については遺産分割協議をしていない場合、不動産については初めての遺産分割となりますので、「遺産分割」による持分の移転登記は可能です。

　共有者の相続人のうちの１人が遺産分割をすることなく死亡している場合、その相続人全員を遺産分割協議に参加させれば、「遺産分割」による持分の移転登記は可能です。例えば、父親が死亡し母親・長男・次男が共有となっていて、続けて母親が死亡したような事例では、長男・次男の２人が遺産分割協議をすれば大丈夫です。

　かなり昔にした法定相続登記であったとしても、遺産分割をすれば持分移転をすることは可能です。１０年前でも、３０年前の法定相続登記でも問題ありません。遺産分割に期限はありませんから、どんなに時間が経過して行われた遺産分割協議でも有効に成立します。